ベトナム進出ガイド|メリット・リスクを他国比較で解説【2026年版】
ベトナムは東南アジアで最も日系企業の進出意欲が高い国です。JETRO「2025年度海外進出日系企業実態調査(ベトナム編)」によれば、在ベトナム日系企業の56.9%が今後1〜2年で事業拡大を予定しており、ASEAN主要国の中でトップの数値を記録しています。
しかし、2024年から始まったグローバルミニマム課税の導入や賃金上昇の加速により、「とにかく安いから」という理由だけでの進出は通用しなくなりつつあります。
この記事のポイント:
- 日系企業2,543拠点が進出、57%が事業拡大を計画中
- 人件費・内需・地理的近さなど5つのメリットと、電力不足・離職率など4つのリスク
- タイ・インドネシアとの比較表で「自社に最適な国」を判断可能
- 2024年以降の税制改正(グローバルミニマム課税)で投資環境が転換期に
この記事では、ベトナム進出のメリット・リスクを、タイやインドネシアとの比較を交えながら整理します。進出を検討している経営者・事業担当者の方が「自社にとってベトナムが最適か」を判断できる情報をまとめました。
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ベトナム進出が加速する背景 ― 日系企業2,500社超の理由
ベトナムの日系企業拠点数は2,543拠点(外務省「海外進出日系企業拠点数調査」2024年10月時点)。2010年代後半から急速に増加し、現在も拡大基調が続いています。
その背景には大きく2つの要因があります。
① GDP成長率7%超の経済成長
ベトナムの2024年のGDP成長率は7.09%(ベトナム統計総局)。ASEAN域内でトップクラスの成長率を維持しており、約1億人の内需拡大が進出先としての魅力を高めています。
② 「チャイナプラスワン」の深化
米中対立の長期化や相互関税の影響で、中国に集中していた生産拠点を分散する動きが加速しています。ベトナムはその最有力の受け皿として、製造業を中心にサプライチェーンの移転先に選ばれています。
東南アジア全体の日系企業動向は「東南アジアに進出する日本企業一覧【2026年最新】」で国別・業種別にまとめています。
ベトナム進出の5つのメリット
① 人件費の安さ(ただし上昇トレンド)
JETRO調査(2024年8月時点)によれば、製造業・作業員の月額基本給平均はベトナム302ドル、タイ437ドル、中国654ドル。ベトナムは依然としてコスト優位性があります。
ただし、最低賃金は近年5〜7%台の引き上げが続いており、2026年1月には平均7.2%引き上げられました。「安さだけ」を理由にした進出は中長期的にリスクがある点は押さえておく必要があります。
② 若い労働力と1億人の内需
ベトナムは若年層の厚い人口構成が続いており、30代以下が人口の約60%を占めます(国連世界人口推計2024)。生産年齢人口の比率が高く、採用のしやすさは東南アジアの中でも際立っています。
また、人口約1億人の国内市場は、製造拠点としてだけでなく販売市場としても魅力的です。松屋(2024年ホーチミン出店)やサイゼリヤ(2025年ホーチミン出店)など、日系飲食チェーンの進出が加速しているのは、この内需の成長を見込んでのことです。
③ EPA・FTAによる関税優遇
日本とベトナムの間にはEPA(経済連携協定)が締結されており、多くの品目で関税が撤廃・軽減されています。さらに、RCEP(地域的な包括的経済連携)やCPTPPにも加盟しており、ASEAN域内・太平洋地域との貿易で有利な条件を活用できます。
関税の影響について詳しくは「相互関税で東南アジア進出はどう変わる?」をご覧ください。
④ 地理的近さと時差2時間
東京からハノイ・ホーチミンへの直行便は約5〜6時間。時差はわずか2時間で、日本の営業時間とほぼ重なります。出張や日常のコミュニケーションにおいて、他の新興国と比べて負担が少ない点は実務上の大きなメリットです。
⑤ 親日感情と日本語人材
ベトナムは東南アジアで最も親日度が高い国の一つです。日本語学習者は約16万人(国際交流基金、2024年)で世界第6位。日本語対応可能な現地スタッフの採用がしやすく、コミュニケーションコストを下げられます。
ベトナム進出で見落としがちな4つのリスク
メリットだけで進出を決めると失敗につながります。以下の4つのリスクは事前に把握しておくべきポイントです。
① 電力供給の逼迫
ベトナムでは工業地帯を中心に電力不足が深刻化しています。2023年には北部で大規模な計画停電が発生し、日系工場を含む多くの製造拠点が操業停止に追い込まれました。電力インフラの整備は進んでいますが、短期的なリスクとして考慮が必要です。
② 高い離職率
JETRO調査では、在ベトナム日系企業の37.5%が「従業員の離職率の高さ」を投資環境上のリスクとして挙げています。特に若年層は待遇改善を求めて頻繁に転職する傾向があり、採用コストだけでなく、技術継承やチームビルディングの観点でも対策が必要です。
③ 法制度の頻繁な変更
ベトナムは法改正のスピードが速く、施行直前に内容が変わることもあります。税制・労働法・投資法の改正が年に複数回あり、常に最新情報を追い続ける体制が求められます。
④ 賃金上昇で「安さ」は薄れつつある
第1地域(ハノイ・ホーチミン)の最低賃金は2024年7月に496万ドンへ引き上げられ、さらに2026年1月から531万ドン(約3.2万円)に再引き上げされました(平均7.2%増)。「人件費の安さ」だけを理由にした進出モデルは見直しが必要です。
進出後の失敗パターンとその回避策は「東南アジア進出で日本企業が失敗する7つの原因」で詳しく解説しています。
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ベトナム・タイ・インドネシアの比較表
ベトナムだけを見ていても、進出先として最適かどうかは判断できません。主要な比較対象であるタイ・インドネシアと並べて確認しましょう。
| 項目 | ベトナム | タイ | インドネシア |
|---|---|---|---|
| GDP成長率(2024年) | 7.09% | 2.5% | 5.03% |
| 製造業 基本給(月額) | 302ドル | 437ドル | 300〜400ドル |
| 法人税率(標準) | 20% | 20% | 22% |
| 日系企業拠点数 | 2,543拠点 | 6,083社 | 約2,000社 |
| 時差(日本との) | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
| 人口 | 約1億人 | 約7,200万人 | 約2.8億人 |
| 最低賃金上昇率 | 年5〜7% | 年2〜3% | 年3〜5% |
出典:JETRO「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」、外務省「海外進出日系企業拠点数調査」、各国統計局
ベトナムが強い領域: 成長率の高さ、若い労働力、日本語人材の豊富さ
タイが強い領域: インフラの安定性、日系企業のエコシステムの厚さ
インドネシアが強い領域: 2.8億人の巨大内需市場
「ベトナムとタイ、どちらにすべきか」で迷っている方は「ベトナムとタイ、進出先はどっち?業種別に比較」をお読みください。
ベトナム進出を左右する2024年以降の制度変更
2024年以降、ベトナムの投資環境は大きな制度変更を迎えています。進出を検討する際は、最新の税制を正確に把握することが不可欠です。
グローバルミニマム課税(最低15%)の影響
2024年1月、ベトナムはOECD/G20のBEPS第2の柱に基づき、グローバルミニマム課税を導入しました。連結売上高7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業グループが対象で、これまでの税制優遇で実効税率が15%を下回っていた企業は、差額分をベトナム政府に追加納付する必要があります。
従来は工業団地への投資で「2年間免税+4年間50%減税」(実効税率5〜10%)の優遇を受けられましたが、大企業にとってはこの優遇の効果が大幅に薄れています。
工業団地優遇の見直しとVAT 8%延長
税制優遇の代替策として、ベトナム政府は投資支援政策の検討を進めていますが、2026年3月時点で具体策は未確定です。一方、対象品目についてVAT(付加価値税)を10%から8%へ引き下げる措置が2026年12月31日まで延長されており、消費関連ビジネスには追い風となっています。

東南アジア6カ国の法人税を横断比較した記事は「東南アジア6カ国の法人税を比較|優遇税制と実効税率の全まとめ」をご覧ください。
ベトナム進出の業種別パターン
ベトナム進出は業種によって最適な形態・地域が異なります。主要3パターンを整理します。
製造業
日系進出企業の中心を占める製造業は、北部(ハノイ周辺)の工業団地に集中しています。自動車部品、電子部品、縫製が主要分野です。近年は南部(ホーチミン周辺)でも食品加工や化学品の工場が増加しています。
留意点: グローバルミニマム課税の影響を最も受けるのが大規模製造拠点。中小企業は引き続き従来の税制優遇を活用可能です。
IT・オフショア開発
ベトナムはIT人材の供給が厚く、オフショア開発の委託先として日本からの需要が高まっています。ホーチミンとハノイが二大拠点で、近年は「安い労働力」から「共創型パートナー」への転換が進んでいます。
IT開発の委託先選びは「オフショア開発はベトナム・タイ・フィリピンのどれが正解?」で3カ国を比較しています。
飲食・小売(内需狙い)
1億人市場を狙った飲食・小売チェーンの進出が2024年以降加速しています。松屋、サイゼリヤ、焼肉ライクなどが相次いでベトナムに出店。中間層の拡大と「日本ブランド」への信頼が追い風です。
まとめ ― ベトナム進出を成功させるために
ベトナムは成長率・労働力・地理的優位性の3つが揃った有力な進出先です。一方で、税制優遇の縮小や賃金上昇といった環境変化も進んでおり、「安さ」だけに依存しない進出戦略が求められます。
進出検討のチェックポイント:
- 自社の業種にとってベトナムが最適か(タイ・インドネシアとの比較)
- グローバルミニマム課税の対象になるか
- 現地パートナーや支援機関の選定
- 電力・人材確保のリスク対策
まずは市場調査と現地視察から始め、専門家の支援を活用しながら進出計画を具体化していくことをおすすめします。
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