ベトナムのオフショア開発「大手」の選び方|会社規模より案件チームを比べる4つの軸【2026年】

ベトナムのオフショア開発会社を「大手」として比べるときは、会社全体の人数より、自社の案件に付くチームの人数・役割・認証範囲を見て選びます。 会社全体の開発者数は公開資料で拾えますが、自社案件の担当者と契約条件は、提案と小さな試行を経て初めて横に並べられます。
この記事は、東南アジアビジネス資料ポータル UpAsia(アップアジア、運営: Talenty株式会社)の編集部が、公開一次資料をもとにまとめた解説です。UpAsia 編集部の集計では、2026 年 10 月 21 日時点で公開中の資料ページは 77、掲載企業は 55 社でした。そのうちベトナムのオフショア開発を扱う掲載企業から 3 社の掲載ページを横断し、JETRO・IPA・認証機関の公開資料と突き合わせて、比べる軸を案件チームの人数・認証の範囲・契約条件・試行の判定の 4 つに整理しています。
ベトナムのオフショア開発で「大手」とは何を指すのか?
答え: 大手を決める業界共通の基準や公的なランキングは、編集部が確認した公開資料の範囲では見当たりませんでした。比べるときは、開発者数・拠点・事業年数といった会社全体の公開値を入口にし、その中から自社案件に回る体制を切り出します。
会社全体の公開値は、掲載ページの紹介文から拾えます。GMO-Z.com RUNSYSTEM の掲載ページには、2005 年に日本向けオフショア開発を始め、開発者は 300 名以上と書かれています(注1)。東京オフィスには、日本人上級 SE を含む 20 名以上の技術者がいるとも記されています。
Vitalify Asia は、ベトナムへ進出して 10 年以上になり、DevOps を標準としたプロセスでラボチームを提供すると紹介しています(注2)。AgeCode JAPAN は、2017 年にオフショア開発を始め、マッチングアプリの自社サービス開発実績を強みに挙げています(注3)。事業年数と得意領域は、この 3 社の紹介文で読み取れる共通の項目です。
これらの数字は、会社全体か特定の拠点についての記載です。自社案件に何人が付き、そのうち何人が日本語で仕様を受け取れるかは、紹介文からは読み取れません。人数の基準日も紹介文に書かれていないため、提案の時点の人数を改めて聞く前提で扱います。
国ごとの費用・品質・リスクの違いから比べたい場合は、オフショア開発はベトナム・タイ・フィリピンのどれが正解?費用・品質・リスクで比較【2026年】で整理しています。
会社全体の人数と案件チームの人数は、なぜ一致しないのか?
会社全体の開発者は複数の顧客案件に分かれて配置されるため、公開された総数は自社案件の人数を示しません。同じ掲載ページの中でも、人数が指す範囲は記載ごとに異なります。
RUNSYSTEM の掲載ページには、ベトナムオフィスのブリッジ SE(BrSE)15 名という記載と、別の箇所の BrSE 30 名という記載が並んでいます。同じページには、日本語対応が可能なメンバー 60 名という記載もあります。30 名と 60 名がどの拠点・時点の数かは紹介文に書かれておらず、読み手の側でどちらかに統合することはできません。
BrSE は、日本側の要件を受け取り、ベトナム側の開発チームへ伝える役割の技術者です。発注側が比べたいのは、会社全体の BrSE 数より、自社案件に付く BrSE の人数と稼働の割合です。

図1のとおり、今回確認した 3 社の掲載紹介文で分かるのは会社全体と拠点の 2 段までで、自社案件の人数までは分かりません。3 段目の案件チームは、提案書に人数・役割・稼働の割合を書いてもらい、拠点名と時点を添えた回答として受け取ります。
採用環境も、案件チームの人数を提案どおりに保てるかに関わります。JETRO の解説記事「25年度日系企業調査(後編)ASEANで強まる市場・人材競争」は、2026 年 4 月 7 日に公表されました(注4)。この記事では、設問に回答した在ベトナム日系企業 894 社のうち 48.2% が、直近 2 年間で雇用環境が悪化し採用が困難になったと答えています。この値は日系企業の雇用全般についての回答で、IT 職種や開発会社に限った数字ではありません。それでも、欠員の補充や増員にかかる期間は、提案の段階で聞いておく項目になります。
会社全体と拠点の人数表記を自分の目で確かめたい方へ。紹介文の人数の記載と、資料の「金額目安」「業務システム開発例」の項目を、質問票づくりの材料にできます。 ベトナム開発実績と事例【GMO-Z.com RUNSYSTEM】
大手を候補に残す条件は何か?
答え: 認証や評価の対象範囲に、自社案件を担う拠点やチームが入っていることを条件にします。ISMS 認証も CMMI の評価も、会社の一部を対象にして取得・実施できる仕組みです。
ISMS について、JIPDEC の FAQ は全社での取得を求めておらず、事業部・部・課単位やプロジェクト単位でも認証を取得できるとしています(注5)。そのため、認証の有無に加えて、証明書の適用範囲に自社案件を担う拠点や部門が含まれるかを照合します。開発会社には、証明書の写しと、適用範囲が書かれた頁の提示を依頼します。
規格の版も照合項目に入ります。ISMS-AC は、2013 年版の規格で認証を受けた組織に、2025 年 10 月 31 日を期限として ISO/IEC 27001:2022 への移行が必要と案内していました(注6)。期限を過ぎた 2026 年 11 月時点では、証明書に記された規格が 2022 年版かを見ます。海外の認定機関による認証であれば、その機関の案内で同じ点を確かめます。
CMMI については、CMMI Institute の PARS(公開評価結果)の扱いを知っておくと判断を誤りにくくなります。PARS は、公開を希望した組織の Benchmark 型・Sustainment 型の評価結果を載せ、Evaluation 型の結果は現在公開していません(注7)。PARS で名前が見つからなくても、評価を受けていないとは限りません。名前が見つかった場合も、評価の対象になった組織の単位に、自社案件のチームが入るかを開発会社に聞きます。
個人データの扱いも条件の一つです。ベトナムでは、個人データ保護法(法律 91/2025/QH15)が 2025 年 6 月 26 日に公布され、2026 年 1 月 1 日に施行されました(注8)。細則を定める政令 356/2025/NĐ-CP も、2025 年 12 月 31 日に公布されています。開発やテストで個人データを扱う案件では、開発会社の取り扱い手順を聞き取り、適用の要否と必要な手続きを自社の法務担当か現地の専門家に確認してもらいます。
ベトナムの制度や事業環境の全体像は、ベトナム進出ガイド|メリット・リスクを他国比較で解説【2026年版】にまとめています。
会社規模と契約形態を組み合わせると、何が変わるのか?
答え: 同じ会社に頼む場合でも、請負と準委任のどちらで契約するかによって、発注側が担う役割と開発会社が負う義務が変わります。会社の規模が大きくても、契約で決める役割分担は発注側の作業として残ります。
日本法を準拠法とする場合、請負は仕事の完成を約束し、その結果に報酬を払う契約です(注9)。準委任は、法律行為でない事務の処理を委ねる契約にあたります。成果に報酬を連動させる準委任であっても、請負と同じ完成義務を負う契約にはなりません。IPA のモデル契約でも、ベンダ企業は善管注意義務のもとで担当業務を行うとされ、請負の完成義務とは扱いが分かれます。
IPA の「情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)」は、準委任契約を前提とし、開発手法としてスクラムを採用しています(注10)。このモデルでは、ユーザ企業(発注側)がプロダクトオーナー(PO)を選任し、PO がプロダクトの方向性と内容に責任を持ちます。契約前チェックリストには「1チーム(最大で10名程度)の継続的対応にて、開発可能な規模であるか」という確認項目があります。

図2の右列は、スクラムを採用する場合の一例です。ラボ型や準委任の契約すべてに PO の選任が求められるわけではなく、契約ごとに役割を定めます。大手に複数チームでの開発を頼む場合は、このモデルが基本とする単一チームの想定を超えるため、チーム間の調整役と責任の分け方を契約に書き加えます。
国をまたぐ契約では、紛争の解決方法も比べる項目です。IPA は 2025 年 4 月 8 日、解説付きのモデル契約に国際仲裁に関する解説を追記しました(50〜51 頁、注10)。準拠法と紛争解決の方法は、契約の相手方がどこの会社かだけで決まるものではありません。当事者の合意、強行法規、判決や仲裁判断をどこで執行できるかを踏まえて、契約の相手方と合わせて確認します。
掲載資料の 3 社は、どう比べて使い分けるのか?
答え: 紹介文に書かれた事実を「公開記載」として並べ、書かれていない部分を質問に変えて、回答が揃った会社を候補に残します。規模の大小で二分するより、同じ質問への回答で並べたほうが違いを比べやすくなります。
3 社は、UpAsia の掲載資料のうち、紹介文からベトナムのオフショア開発を扱うと読み取れ、事業の開始時期や開発体制の記載がある会社から選びました。掲載の順は優劣や推奨を示すものではなく、ベトナムの開発会社全体を網羅したものでもありません。候補を広げるときは、各社の公式サイトの会社概要と、PARS・ISMS の確認結果を同じ表の行に足していきます。
| 会社(掲載資料) | 公開記載 | 紹介文で確認できない範囲 | 提案時の質問 | 候補に残す条件 |
|---|---|---|---|---|
| GMO-Z.com RUNSYSTEM | 2005 年開始、開発者 300 名以上、BrSE 15 名と 30 名の記載 | 30 名・60 名の対象拠点と基準日 | 自社案件に付く BrSE の人数と稼働の割合 | 人数を拠点名・時点つきで書面回答できる |
| Vitalify Asia | 進出 10 年以上、DevOps を標準とするラボチーム、アジャイル開発 | ラボチームの人数と構成 | チームの構成と、PO 役を誰が担うか | 役割分担を契約条件に書ける |
| AgeCode JAPAN | 2017 年開始、マッチングアプリの自社開発実績 | 開発体制の人数と構成 | 自社案件の領域での担当実績 | 実績の担当者が自社案件に入れる |
掲載ページに載った資料の目次からは、各社の資料で扱う項目が分かります。RUNSYSTEM の資料には「金額目安」、Vitalify Asia の資料には「価格、体制」、AgeCode JAPAN の資料には「開発体制」「主な納品物」「実施までの流れ」の項目があります。費用感と体制を先に知りたいか、納品物と進め方を先に知りたいかで、読む順番を決められます。
大手を検討するときは、会社規模の代わりに次の 4 項目を表の列に加えます。
- 複数チームの統括責任者。複数チームで進める場合に、チーム間の優先順位と品質を誰がまとめるかを、氏名か役職で答えてもらいます。
- 増員時の供給体制。増員を依頼してから参画までの手順と期間、社内異動か新規採用かの別を聞きます。
- 専門領域の担当実績。会社としての実績ではなく、自社案件に入る予定のメンバーが担当した案件の領域を確かめます。
- 最低契約条件。最低の契約期間と人数を聞き、試行に使える範囲を把握します。
契約形態と役割分担まで比べ始めた方へ。ラボ型開発のチーム紹介と「価格、体制」の項目を、PO 役や統括責任者を質問するときの手がかりにできます。 御社ビジネスをグロースさせる開発パートナー〜ラボ型開発でDevOps〜
候補の比較はどう進めるのか?
答え: 発注側が公開記載を拾って質問票を送り、開発会社が案件チーム案と試行の証拠を出す、の 4 段階で進めます。各項目は開始前・実施中・終了時に確かめ、本契約へ移るかの最終判定は試行の後に発注側が行って、結果を本契約の条件に反映します。

- 公開記載を拾う(発注側)。掲載資料と各社の公式サイトから、開発者数・拠点・事業年数・認証を基準日つきで書き出します。
- 質問票を送る(発注側)。案件チームの人数、認証の範囲、契約条件、試行の判定方法の 4 軸で質問を作り、候補の全社に同じ文面で送ります。
- 案件チーム案を出す(開発会社)。開発会社が、BrSE と開発者の人数・役割・稼働の割合、統括責任者を書面で示します。
- 試行で証拠を出す(開発会社)。最低契約条件の範囲で小さな機能を開発し、次の表の 4 項目の証拠を提出します。
試行の後、発注側は下の表に沿って判定します。証拠の種類と判定する人を試行の前に決めておくと、試行の結果を本契約の条件に移しやすくなります。
| 判定項目 | 証拠 | 判定する人 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 仕様理解 | BrSE がまとめた仕様の確認書と質問一覧 | 発注側の PM(または PO) | 試行の開発開始前 |
| レビュー記録 | コードレビューの指摘と対応の記録 | 発注側の技術担当 | 各レビューの後 |
| テスト結果 | テスト項目、実施結果、不具合の一覧 | 発注側の PM と技術担当 | 試行の終了時 |
| 引き継ぎ資料 | 設計書、手順書、環境の構成情報 | 発注側の運用担当 | 試行の終了時 |
よくあるつまずき
大手に依頼したのに、提案時の BrSE が案件に付かない。
提案書に BrSE の人数はあっても、氏名や稼働の割合が書かれていない場合に起こりえます。案件チーム案の段階で、担当者の交代時の連絡方法と引き継ぎ期間も契約条件に入れておきます。
ISMS 認証を確かめたのに、担当拠点が適用範囲に入っていない。
認証は部門やプロジェクトの単位でも取得できるため、会社名での確認では範囲の違いに気づけません。証明書の適用範囲の頁を受け取り、自社案件を担う拠点名と照らし合わせます。
準委任で契約したのに、仕様の決定が進まない。
準委任では、発注側が担う役割を契約で決めておかないと、判断を待つ時間が延びがちです。PO を置く場合は発注側の誰が務めるかを決め、判断の期限を試行の段階から運用します。
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発注前に何を確認しておくのか?
案件チームの人数、認証の範囲、契約条件、試行の判定の 4 点が書面で揃っているかを確認します。
- 案件チームの人数。BrSE と開発者の人数・役割・稼働の割合が、拠点名と時点つきで提案書に書かれているか。
- 認証の範囲。ISMS 証明書の適用範囲と規格の版、CMMI の評価対象の単位に、自社案件のチームが入っているか。
- 契約条件。請負か準委任か、契約の相手方、準拠法と紛争解決の方法、PO などの役割分担が決まっているか。
- 試行の判定。仕様理解・レビュー記録・テスト結果・引き継ぎ資料について、証拠・判定する人・時期が決まっているか。
よくあるご質問
Q. ベトナムのオフショア開発の大手ランキングはありますか?
編集部が確認した公開資料の範囲では、大手を決める共通の基準や公的なランキングは見当たりませんでした。開発者数や事業年数は、各社の公表値を基準日つきで比べます。
Q. 会社全体の開発者数が多ければ、増員にも対応できますか?
会社全体の人数は他の案件の担当者を含むため、増員の余力を直接は示しません。増員の手順と参画までの期間を提案時に聞き、契約条件に書いておきます。
Q. PARS に載っていない会社は、CMMI の評価を受けていないのですか?
受けていないとは限りません。PARS は公開を希望した組織の Benchmark 型・Sustainment 型の結果を載せ、Evaluation 型の結果は現在公開していません。
Q. UpAsia から開発会社を紹介してもらえますか?
UpAsia は資料を集めて無料で配るポータルで、紹介や仲介は行っていません。資料をダウンロードした後のご相談は、各掲載企業の窓口へ直接お問い合わせください。
Q. 資料のダウンロードに費用はかかりますか?
費用はかかりません。無料の会員登録(入力 1 分)を済ませると、登録したメールアドレスに資料のダウンロード URL が届きます。
試行の進め方を決めてから問い合わせたい方へ。「主な納品物」「実施までの流れ」の項目を、判定に使う証拠と時期を決める前の確認に使えます。
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脚注 (注1)〜(注10)の出典は、記事末尾の出典一覧の番号順に対応しています。
